ソリューション計算の内側(公式記事翻訳)

原文 2020年12月16日公開

注:この記事はメジャーアップデート以前のソリューションを題材としていますが、有用と判断し2021年7月に邦訳いたしました。

昨年11月に、6MAXキャッシュゲームのゲームツリー全体を閲覧できる高度なGTOツール、GTO Wizardをリリースしました。私たちのソリューションはゲーム中に起こりうる300以上の異なるポストフロップのシナリオを、300,000以上のフロップで計算して作り上げています。多くの方からいただいたご質問に、この記事でお答えします。

目次

○プリフロップの計算と設定
○ほとんどのシナリオで3つのサイジングを選択した理由と、その背景にある理論
○学習の容易さとEVの両立
○ポストフロップでのソリューションの精度
○レークストラクチャ
○近似での計算
○今後の改善点
○今後の予定

プリフロップの計算と設定

プリフロップはMonkerSolverにより計算されています。すべての状況でコールを選択肢に含めた、複雑なプリフロップツリーを計算しました。非常に大きなRAMを必要としたため、強力なサーバーで計算する必要がありました。

今回のソリューションに使用された設定は以下の通りです。
PokerStarsの500NL Zoom Rake 5% – 0.6bbキャップを想定しています。

注:現在は50NL Zoom Rakeを想定したプリフロップソリューションも公開されています。

モンカーソルバーの設定
レーク:5%
バケット:30、30、30
テクスチャ:パーフェクト、ラージ、ラージ
プリフロップのI/N:100

ほとんどのシナリオで3つのサイジングを選択した理由と、その背景にある理論

注:2021年7月時点で更に10個以上のサイズが追加されています。

レイザーのオープンに対して、3種類のツリーが存在します。順番に説明します。

○シングルレイズポット
○3ベットポット
○4ベットポット

シングルレイズドポット

シングルレイズポットの場合は、さらに2つの異なるツリーに分けられます。 1つ目のツリーは、UTG、HJ、CO、BUがポットをオープンし、SBかBBがプリフロップでコールしてHUになった状況です。 このような状況では、ポットサイズはSBとBBのどちらがプリフロップでコールしたかによって、5.5bbまたは6bbのいずれかになります。 例えば、BTNオープンをBBがコールすると、次のようになります。

BUが2.5BBでオープンし、SBはフォルド(0.5bbをポスト)し、BBプレイヤーが2.5bbオープンをコールしました。 ポットの合計は2.5bb + 0.5bb + 2.5bbの5.5bbとなります。

フロップの分岐

■ドンク

SB/BBはドンクを選択することが可能です。 GTOでは、OOPのSB/BBは、IPのプリフロップレイザーに対してレンジアドバンテージがあるローボードを除いて、100%頻度でチェックする場合が多いため、ドンクするツリーは珍しいものです。

OOPは1.5bb(27%)または4bb(72%)の2つのドンクオプションがあり、それに対してIPはスモールまたはビッグサイズの2つのレイズオプションを持ちます。サイズは 20%~35%をスモールサイズに、55%~85%をラージサイズとして設定しています。

上の例はBTNが2.5bbオープンし、BBのみがコールしたものです。 フロップは7s 5h 3dとなり、BTNよりも多くのローカードのスーテッドハンドを持っているBBにとってはかなり良いフロップです。 BBは約25%の確率でドンクを選択していますが、ほとんどがスモールサイジングを使用しています。 これはほとんどの場面で見られることで、大きなドンクサイズが使われることは滅多にありません。

上図はBBのドンクに対するIPの戦略です。IPは小さなサイズと大きなサイズを組み合わせてレイズすることがわかります。 ほとんどの場合、小さいサイズを選択しますが、これは大きいサイズを使用するよりも、ポジションをより有効に使えるので理にかなっています。

しかし、ある種のバリューハンド(88や99)はオーバーカードに弱いという理由から大きなサイズを使っています。 このような条件を鑑みて、レイズ(やチェックレイズ)において2種類のサイズを用意することが重要だと我々は考えました。

ここで77を見てみましょう。このトップセットはターンのストレート完成カードを除くと怖いカードはありません。そのため、常にスモールレイズを好みます。Practiceモード等で試してみると、OOPではこのコンセプトがより当てはまることに気づくでしょう。

■コンティニュエーションベット(CBet)

CBetの場合はドンクとは異なり、3つの選択肢があります。 これには次のような理由があります。

○IPからはドンクよりも大きなサイズでCBetする方がはるかに一般的である。
○このシナリオはポストフロップで最頻出なスポットなので、細分化する必要がある。
○将来的に開発をスムーズに行うために、我々自身もあらゆるボードでどのようなサイズが使われているかを把握する必要があった。

よくある質問として、もしCBetの選択肢が3つや4つではなく2つしかない場合、EVを損なうのではないかというものがあります。 答えはNoです。 PioSolverでこれらのシナリオを実行すると、2種類の適切なサイズを選択しているならば、2サイズでも3サイズでもEVはほぼ同じであることがわかります。

にもかかわらず、我々が3つのサイズを使うことにしたのは、フロップでオーバーベットのサイズが実際に使われる頻度を知りたかったからです。 これは、学習しやすいようなシンプルなソリューションを作る場合に非常に重要なことで、どのフロップにオーバーポットを含める必要があるのか、あるいはないのかを正確に知ることができます。この件について、もう少し深く見てみましょう。

引き続きBTNが2.5bbオープンし、BBがコールでディフェンスするパターンです。

Js 9h 3cが最初のシナリオです。

このボードではターンカードにA、K、Qといったオーバーカードが複数あり、またK、Q、T、8、7でストレートが完成するという、ミドルカードに寄ったボードになっています。そのため、IPはフロップでのプロテクションのために大きめのベットサイジングを好むバリューコンボを多く持っていますが、そこには薄いバリューを得たいハンドもたくさん含まれています。

ここでの戦略は、チェックが33%、スモールサイズが31%、ミドルサイズが23%、そしてオーバーベットが14%となっています。 オーバーベットの割合が高くなっていますが、 QQ、KK、AA、AJ、KJ、J9のようなハンドはターン以降でEQを失いやすく、加えてフロップ時点で相手のコールレンジからできるだけ多くのバリューを引き出したいので、このボードではオーバーベットを加えることが重要です。

QQのようなハンドでは2つの大きなベットサイズが好まれ、小さなベットサイズはターンのレンジ内訳を散らす目的のためだけに使用されることがわかります。

このボードでは、3つのベットサイズが満遍なく使用されていることから、今後のソリューションでも3つのベットサイズを備えることが重要であると我々は考えています。

次のシナリオはAh 9d 2sボードです。

このボードは非常にドライです。バリューハンドが心配するようなターンカードがデッキに1枚もありません。 このようなボードでは、チェック30%、スモールサイズ54%、ミドルサイズ15%、オーバーベット1.5%と、先ほどと戦略が大きく変わります。 ここではオーバーベットはレンジの中で重要な部分ではなく、このボードならば将来的にはソリューションからオーバーベットを除外することを検討しても良いでしょう。 スモールサイズを頻繁に使いますが、これは相手よりもレンジ全体のEQで優っており、バリューハンドもEQを失うようなターン、リバーカードがほとんどないからです。

また、BBは一切ドンクをしません。この選択肢も計算から取り除いてしまっても良いでしょう。

ターンのサイジング

■プローブ及びディレイ

プローブとディレイCBetでは、27%、73%、127%の3つのサイズを用意しました。それらに対して相手プレイヤーには大小2つのレイズサイズを用意しました。 この戦略は前述の原則に従っており、つまりおおよそ十分なEVを得られるとともに、ツリーを複雑にしすぎることなく、テーブルで見られるあらゆるベットサイズに妥当な対抗策を持つことができます。

■ターンドンク

ターンのドンクは29%と76%の2つのサイズに限定され、それに対する相手は大小2つのサイズでレイズする選択肢があります。 76%ポットサイズでドンクをすることは稀なので、将来的なソリューションではほとんどの状況でこのサイズは削除されるかもしれません。 一般的に、ドンクをする際にはブロックベットサイジングと呼ばれる、ポットの15%~35%の額を使用します。

■ターンバレル

ターンのバレルには3つのサイズがあります。 これらは選択したフロップでのベットサイズによって若干異なりますが、25%~30%、70%~80%、140%~170%です。

スモールサイズは、ドライボードでトップセットのようなリバーカードが怖くない分厚いバリューハンドがよく使い、薄くバリューを取りたいハンドやブラフを混ぜて使います。

ミドルサイズも似たような使い方をしますが、薄いバリューハンドにもう少し寄る傾向があります。

ラージサイズは、リバーカードでEQを損ないやすいバリューハンドと、相手のコールレンジに対してアウツがある綺麗なブラフを混ぜます。いわゆるポラライズを目的として使います。

リバー

リバーはターンと同じような発想で3つのベットサイズが設定されていますが、そこにオールインの選択肢を加えています。

アーリーオープン VS IP

その他のシングルレイズポットの例としては、アーリーポジションのレイザーがブラインド以外のIPのプレイヤーにコールされた場合があります。 たとえば、UTGが2.5bbでオープンし、BTNがその2.5BBをコールドコールして、後ろのブラインドがフォールドしたケースです。

この状況はOOPドンクと同じような選択肢を設定していますが、そこにオーバーベットのオプションを加えています。しかし、我々が知る限り、このラージサイズはOOPからはあまり使わないサイズであり、今後のソリューション作成時にはほとんどのフロップで取り除かれているかもしれません。

3ベットポット

フロップ

3ベットポットで選んだサイズは、20%、56%、122%です。 3ベットポットでは、シングルレイズポットに比べてSPRが小さくなるため、ターンやリバーのベットでオールインの状況になりやすいです。 SPRは適切なベットサイズを決定する上で重要な要素であり、一般的にSPRが小さくなればなるほど、ベットサイズを小さくする傾向にあります。3ベットポットで3つのベットサイズを持つ場合、15%~30%、45%~70%、100%~140%の間が適切と考えられます。

非常にドライなボード(例:As 9h 2c)では、OOPはスモールまたはミディアムサイズでCBetしたいと思うでしょう。

ここでは、先ほど説明したバリューハンドの脆弱性と同じようなコンセプトが見られます。 バリューハンドはターンカードでEQを損なうことをそこまで心配する必要はありません。そこで、20%と56%のサイジングでCBetを打ち、オーバーベットやオールインといったサイズをほぼ除外しています。

キャッシュゲームの3ベットポットでは、CBetのサイズとして33%ポットベットが広く用いられますが、間違いではないものの、最適なサイズではないと我々は考えています。ゲーム理論の観点からも、より小さなサイズを利用する方がはるかに理にかなっています。

次に、Jh Th 2cボードを見てみましょう。

このボードではオーバーベットとオールインのサイズがより頻繁に使用されていることに気づくでしょう。これは、ヴィラン(今回はIP)側に多くの強力なドローがあり、こちらのバリューハンドの多くがターンカード次第で弱くなりやすいため、ここでオールインしたいと考えているからです。 また、AQoやAKoのようなハンドは、ここでセミブラフとしてオールイン可能です。オールインをコールすることができるヴィランのあらゆるドローに対してEQは優位です。

このように、IPがポジションを活かしやすい状況では、OOP側はオーバーベットを使いたい場合があります。

OOPがチェックしたときには、IPはたいていスモールサイズとミディアムサイズを使います。 オーバーベットは滅多に使うことはありませんし、オールインサイズを使うことは皆無です。なぜなら、それはIPのポジションの優位性を無駄にしてしまうからです。

ターンのサイジング

■プローブ及びディレイ

プローブとディレイのCBetには20%、56%、122%の3つのサイズを用意しています。その相手側にはこれらのサイズに対してそれぞれ大小2つのレイズサイズを用意しました。 例外として、CBetのサイズが大きい場合は、レイズサイズはオールインのみとなっています。

この戦略はこれまでと同じ発想であり、十分なEVを得るとともに、ソリューションを複雑にしすぎることなく、実戦でよく見るほとんどのベットサイズに対して適切な対応を取ることができます。

■ターンドンク

ターンドンクには3つのサイズが設定してあります。フロップのCBetのサイズによって異なりますが、15%~25%、50%~70%、100%~120%でドンクします。それに対してIPは大小2つのレイズオプションを持ちます。 ミドルやビッグサイズでドンクを使うことは稀であり、これらのサイズが使われていないボードにおいては、今後のソリューションでは除外することもあるでしょう。ドンクをする時は、一般的にポットの15%~35%のブロックベットサイジングと呼ばれるものを使用します。

■ターンバレル

ターンバレルには3つのベットサイズが設定してありますが、これはフロップのベットサイズによって変わります。 CBetに対して相手がコールした場合を想定して、以下に場合分けして記します。

フロップ:スモールサイズ(20%)
ターン:19%、57%、113%、オールイン

ミディアムサイズ(56%)
ターン:21%、68%、オールイン

フロップ:ラージサイズ(122%)
ターン:23%、オールイン

これらのコンセプトの背景は、シングルレイズドポットの章で解説したものと同様です。

リバー

リバーはターンと同じようなコンセプトでプレーします。スモール、ミディアム、ラージ、そしてオールインのが選択肢となります。


4ベットポット

フロップ

4ベットポットで選んだサイズは、13%、38%、67%、そしてオールインです。 4ベットポットでは、SPRが3ベットポットよりも小さいため、ベットサイズも小さくしています。

ポットの13%という最小のサイズは、ほとんどのドライボードで使用されるベットサイズであり、他のサイズよりも遥かに高い割合で使われます。 一方、ウェットボードではより大きなサイズが使用されます。

4Betのポットでドンクが使われることはあまりないので、将来的には我々のソリューションの大半のフロップからドンクのオプションが除外されるかもしれません。

ターンのサイジング

■プローブ及びディレイ

プローブとディレイCBetには13%、38%、67%、の3に加えてオールインを設定しました。

それに対するアクションですが、 スモールベットに対してはスモールレイズ、ラージレイズ、オールインを設定しています。 ただし、これは将来的なソリューションでは変更され、1つのレイズサイズとオールインのみになる予定です。 ミディアムサイズに対しては、現在スモールレイズとオールインで対抗し、 ビッグサイズにはオールインのみでレイズを返します。

■ターンドンク

ターンのドンクはフロップのベットサイズに応じて、3つまたは2つのベットサイズを設定しています。 サイズはブロックベットとして使われるようなスモールサイズ、そしてミディアムサイズ、ラージサイズです。

■ターンバレル

ターンバレルもフロップのベットサイズに応じて変化します。 CBetに対して相手がコールした場合を想定して、以下に場合分けして記します。

フロップ:スモールサイズ(13%)
ターン: 14%、34%、54% 、オールイン

ミディアムサイズ(38%)
ターン:18%、オールイン

フロップ:ラージサイズ(67%)
ターン:オールイン

リバー

リバーはここでもターンと同じようなコンセプトでプレーします。スモール、ミディアム、ラージ、そしてオールインのが選択肢となります。


学習の容易さとEVの両立

ソリューションのツリーをデザインする際、可能な限り学習しやすいように作る一方で、単純化しすぎて多くのスポットでEVを犠牲にすることのないようなものしたいと考えていました。

また、ポーカーテーブルで直面する可能性のあるすべてのベットサイズに近いサイズを設定するつもりでしたが、すべての状況で10種類のベットサイズを設定するようなソリューションは、研究に不向きなので避ける意向でした。

最終的に、ほとんどの状況で3つのベットサイズに落ち着きました。これによりすべてのシナリオで小・中・大のベットサイズを使うことが出来ます。この設定を使うことで、異なるボードテクスチャ、IPおよびOOPの両方のプレーで適切なサイズを使うことが可能となっています。


ポストフロップでのソリューションの精度

全てのソリューションは最低でもポットの0.8%、ほとんどのソリューションではポットの0.4%まで計算しています。

シングルレイズ、3ベット、4ベットなどの主な場面ではポットの0.4%です。非常に稀なものと、レンジが極端に狭い状況ではポットの0.8%で終えています。


レークストラクチャ

PokerStars 500 Zoomのレーキストラクチャを元にしてプリフロップとポストフロップの両方を計算しています。

これは5%のレーキで、0.6BBキャップです。


近似での計算

近似を利用した計算は行っていません。似たようなボードを近似として扱ったりはせず、各スポットを個別に計算しています。 これがGTOWizardのスタンダードです!


今後の改善点

近いうちに、ハンドヒストリアナライザーでのベットサイズを増やし、実際のゲームで遭遇する可能性のあるすべてのサイジングにほぼ完璧に対応できるようなソリューションを投入する予定です。(2021年7月時点で対応済み)

さらに、この複雑なソリューションに基づいて、単純化したソリューションも提供します。各状況のEV regretを計算し、最適なサイジング(複数のサイズがありえます)を選択することができるアルゴリズムを使うことで簡略化を実現します。

これは大きな学習の助けとなるはずです。実戦のより多くのスポットでGTOに基づいたプレーを選ぶことができます。この記事のシングルレイズドポットのセクションが、簡易化されたツリーでの学習例に相当します。


今後の予定

2021年には以下のゲームに関するソリューションを提供する予定です:

○Spin and Go
○MTTs
○Heads Up Cash
○PLO HU Cash
○PLO 6max Cash
○Heads Up Hyper/Turbo SnG

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